【コラム】用語の意義を明確に!「定義規定」の使い方について【行政書士が解説】
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法令や契約書を読んでいると『(以下「〇〇〇」という。)』や『この法律において「✖✖✖」とは、〇〇〇をいう。』なんて表記を見たことはありませんか?
これは、「定義規定」と呼ばれる規定で、文中に出てくる用語の意義を明確にし、読み手全員がその用語に対して同じ解釈となるようにする目的で置かれるものです。
国民の権利・義務に関係する法令において、文中で使われる用語について、全ての読み手に同じ解釈を持たせるという意義がありますので、定義規定がその法令内で持つ役割というのは、重要なものと言えるでしょう。
法令に限らずとも、契約書や利用規約など、自社と取引先や顧客などとのルールを定める文書においても、双方に用語の解釈の疑義が生じないようにすることは大切です。
今回は、この「定義規定」について、書類作成のプロである行政書士が解説いたします。
また、「定義規定」の表記の仕方について、実際の法令の条文を例に挙げて、ご紹介いたしますので、自社の重要文書の作成時に、参考にしていただければ幸いです。

法律における条番号や号番号、条文中の数字の表記は、本来、漢数字ですが、本コラムでは、見やすさと他の書類に置き換えて考えやすいように、それぞれ算用数字や括弧でくくった数字に代えさせていただいております。
「定義規定」が置かれる目的
上記でも触れましたが、「定義規定」には、文中の用語の解釈上の疑義をなくすという意義があります。これは、法令や契約書などにおいて、とても大事な役割です。
例えば、市役所の窓口で、このように案内されたとしましょう。

「税金」と一口に言っても、様々な種類がありますよね。
働いている人であれば「住民税」を想像しやすいでしょうし、不動産を持っている人であれば「固定資産税」、軽自動車を持っている人であれば「軽自動車税」を想像されたかもしれません。
市に納める税金だけでも、数種類の税目がありますので、人によって、それぞれイメージするものが変わる可能性があります。
ちょっとした日常会話の中であれば、それまでの会話の流れや背景から、その用語が何を指しているのかを理解することができますが、不特定多数の人間が読む法令の場合だと、必ずしも全員が同じ解釈になるとは限りません。
この例でいう「税金」のように、広狭の幅があったり、多義的であったりする用語の意義を明確にすることが定義規定の意義です。

「略称規定」との違いについて
「定義規定」と似ているものとして、「略称規定」という表記の仕方もあります。
「略称規定」とは、文書の中で、一定の長い表現を繰り返し記載することを避け、文書を簡潔にするために、その表現を略すときに用いられる表記の仕方です。
例えば、略称規定を設けた条文としては、次のようなものがあります。
例
個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号) ※令和7年5月31日時点の条文です。
第1節 個人情報の保護に関する基本方針
第7条 政府は、個人情報の保護に関する施策の総合的かつ一体的な推進を図るため、個人情報の保護に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。

上記のように、略称規定は、定義規定とはその意義が区別されるものですが、文中の用語の意味内容を限定するという点では、共通の機能を有していますし、表記の仕方についても共通していますので、実務上、区別して覚える必要はあまりないものと思われます。
「定義規定」の表記の仕方について

それでは、本題です。
「定義規定」の表記の仕方をいくつか紹介いたしますので、使う場面や目的によって、より適切な表記の仕方ができるように、参考にしていただけると幸いです。
総則的規定としての「定義規定」
まずは、総則的規定としての「定義規定」です。
これは、定義したい用語を一つの条項にまとめて定義する方法です。重要な意義を有する用語や頻繁に用いられる用語が多いときに便利です。
総則的規定としての「定義規定」には、主に次の2種類の表記の仕方があります。
表記の仕方① 項(段落)ごとに定義する文を置く方法
一つ目は、一つの条文に、定義したい用語ごとに複数の項(段落)を置き、それぞれ『この法律において「✖✖✖」とは、〇〇〇をいう。』と表記する方法です。
実際にこの書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
航空法(昭和27年法律第231号) ※令和7年5月31日時点の条文です。
(定義)
第2条 この法律において「航空機」とは、人が乗つて航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器をいう。
2 この法律において「航空業務」とは、航空機に乗り組んで行うその運航(航空機に乗り組んで行う無線設備の操作を含む。)及び整備又は改造をした航空機について行う第19条第2項に規定する確認をいう。
3 この法律において「航空従事者」とは、第22条の航空従事者技能証明を受けた者をいう。
(以下略)
表記の仕方② 各号列記する方法
二つ目は、『この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、(それぞれ)当該各号に定めるところによる。』という柱書を置き、その下に定義したい用語と、その用語のその法律上での意義を列記するという方法です。
実際にこの書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
会社法(平成17年法律第86号) ※令和7年5月31日時点の条文です。
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
⑴ 会社 株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう。
⑵ 外国会社 外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。
⑶ 子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。
(以下略)
★ワンポイントアドバイス★
表記の仕方①と②だったら、どちらを使うべき??
表記の仕方①と②を見比べてみると、①では定義する用語を「項」で分けており、②では定義する用語を「号」で分けていることが分かります。
この点、法令においては、石毛正純『法制執務詳解≪新版Ⅲ≫』(株式会社ぎょうせい出版、2020)79頁では、「前者の書き方が多い。条の中で規定する内容を区分して書くには、まず項にして書くのが基本である。」と述べられています。

「項」と「号」の違いは、以下のとおりです。
定義したい用語を書き連ねていくという定義規定の性質上、どちらの表記の仕方もできますので、それならば、号よりも大きな区分である項をまず使うのが、一般的ということでしょう。
項…一つの条が、二つ以上の段落で構成されるときに、行を改めて書き始められた段落のこと。
号…条または項の中で、一定の事項を列記したいときに、⑴、⑵…(法令の場合は、漢数字)と番号を付して列記したもの
括弧書きによる「定義規定」
総則的規定としての「定義規定」のように用語の定義専用の規定を置く方法のほかに、定義したい用語が出てくる都度、個々の規定の中で括弧書きで用語の定義をするという方法もあります。
この方法には、状況に応じた何種類かの表記の仕方があります。
一般的な表記の仕方①
まずは、一般的な表記の仕方です。
これは、定義する用語の直後に『(〇〇〇をいう。)』というような、その用語を説明する括弧書きを置く表記の仕方です。
実際にこの書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
道路交通法(昭和35年法律第105号) ※令和7年6月3日時点の条文です。
(運転者の遵守事項)
第71条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
⑴-⑵の2 (略)
⑵の3 児童、幼児等の乗降のため、政令で定めるところにより停車している通学通園バス(専ら小学校、幼稚園等に通う児童、幼児等を運送するために使用する自動車で政令で定めるものをいう。)の側方を通過するときは、徐行して安全を確認すること。
(以下略)
一般的な表記の仕方➁
表記の仕方①に加えて、定義した用語を以後も同じ意味で用いる場合は、『(〇〇〇をいう。以下同じ。)』と表記します。
どちらかというと、このように『以下同じ。』が付いている方が、よく見かけますね。
この書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
道路交通法 ※令和7年6月3日時点の条文です。
(目が見えない者、幼児、高齢者等の保護)
第14条 目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。
2 (略)
3 児童(6歳以上13歳未満の者をいう。以下同じ。)若しくは幼児(6歳未満の者をいう。以下同じ。)を保護する責任のある者は、交通のひんぱんな道路又は踏切若しくはその附近の道路において、児童若しくは幼児に遊戯をさせ、又は自ら若しくはこれに代わる監護者が付き添わないで幼児を歩行させてはならない。
(以下略)
一般的な表記の仕方③
その他にも『(以下「〇〇〇」という。)』という表記で、この表記の前に置かれている一定の範囲の用語を要約するという方法もあります。
こちらも、法令や契約書などでよく見かけると思います。
この書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
道路交通法 ※令和7年6月3日時点の条文です。
(危険防止の措置)
第67条 (略)
2 前項に定めるもののほか、警察官は、車両等の運転者が車両等の運転に関しこの法律(中略)若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律の規定に基づく処分に違反し、又は車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊(以下「交通事故」という。)を起こした場合において、当該車両等の運転者に引き続き当該車両等を運転させることができるかどうかを確認するため必要があると認めるときは、当該車両等の運転者に対し、第92条第1項の運転免許証又は第107条の2の国際運転免許証若しくは外国運転免許証の提示を求めることができる。
(以下略)
定義したい字句に含まれるものから、一定のものを除きたい場合の表記の仕方
ここからは、少しだけテクニカルな表記の仕方をご紹介いたします。
字句を定義するとき、その字句から一定のものを除いて定義したいことがありますよね。
そのような場合には、 『……を除く。』という表記を置くことによって、字句の一部を定義から除外することができます。
『(……を除く。以下同じ。)』
『(……を除く。以下「〇〇〇」という。)』
というような表記の仕方ですね。
この書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
国民健康保険法(昭和33年法律第192号) ※令和7年6月5日時点の条文です。
(療養の給付)
第36条 市町村及び組合は、被保険者の疾病及び負傷に関しては、次の各号に掲げる療養の給付を行う。ただし、当該被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員が当該被保険者について第54条の3第1項又は第2項本文の規定の適用を受けている間は、この限りでない。
⑴-⑷ (略)
⑸ 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
2 次に掲げる療養に係る給付は、前項の給付に含まれないものとする。
⑴ 食事の提供たる療養であつて前項第5号に掲げる療養と併せて行うもの(医療法(中略)第7条第2項第4号に規定する療養病床への入院及びその療養に伴う世話その他の看護であつて、当該療養を受ける際、65歳に達する日の属する月の翌月以後である被保険者(中略)に係るものを除く。以下「食事療養」という。)
(以下略)
定義したい字句を一定のものに限定したい場合の表記の仕方
一定のものを除きたい場合と似たようなときの想定ですが、定義したい字句を、その字句に含まれるものから一定のものに限定したい場合の表記の仕方として、
『(……に限る。以下同じ。)』
『(……に限る。以下「〇〇〇」という。)』
というような表記の仕方もあります。
この書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
道路交通法 ※令和7年6月3日時点の条文です。
(時間制限駐車区間)
第49条 公安委員会は、時間を限つて同一の車両が引き続き駐車することができる道路の区間であることが道路標識等により指定されている道路の区間(以下「時間制限駐車区間」という。)について、当該時間制限駐車区間における駐車の適正を確保するため、パーキング・メーター(内閣府令で定める機能を有するものに限る。以下同じ。)又はパーキング・チケット(中略)を発給するための設備で内閣府令で定める機能を有するもの(中略)を設置し、及び管理するものとする。
(以下略)
定義したい字句に一定のものを含ませたい場合の表記の仕方
次は逆に、本来その字句には含まれていない一定のものを含ませて定義したい場合の表記の仕方です。
このような場合には、『……を含む。』という表記を置き、
『(……を含む。以下同じ。)』
『(……を含む。以下「〇〇〇」という。)』
というようにします。
この書き方がされている条項としては、次のようなものがあります。
例
道路交通法 ※令和7年6月3日時点の条文です。
(交通安全対策特別交付金)
第16条 国は、当分の間、交通安全対策の一環として、道路交通安全施設の設置及び管理に要する費用で政令で定めるものに充てるため、都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、交通安全対策特別交付金(以下「交付金」という。)を交付する。
(以下略)
条項を限定して定義する場合
定義された用語が用いられる条項が少ない場合、その用語が用いられる条項を示しておくと、その後の条項を読む際に、定義された用語が用いられていないかどうかを気にしなくて済むようになります。
また、その文書で用いる用語について、特定の条項に限って、その意味を縮小または拡大したりして用いる場合にも、条項を限定して定義することがあります。
表記の仕方としては、
『(以下この条において「〇〇〇」という。』
『(第△条において「〇〇〇」という。)』
『(〇〇〇をいう。次項において同じ。』
などがあります。
条項を限定して定義している表記の例として、次のようなものがあります。
例
道路交通法 ※令和7年6月3日時点の条文です。
(路線バス等優先通行帯)
第20条の2 道路運送法第9条第1項に規定する一般乗合旅客自動車運送事業者による同法第5条第1項第3号に規定する路線定期運行の用に供する自動車その他の政令で定める自動車(以下この条において「路線バス等」という。)の優先通行帯であることが道路標識等により表示されている車両通行帯が設けられている道路においては、自動車(路線バス等を除く。以下この条において同じ。)は、路線バス等が後方から接近してきた場合に当該道路における交通の混雑のため当該車両通行帯から出ることができないこととなるときは、当該車両通行帯を通行してはならず、また、当該車両通行帯を通行している場合において、後方から路線バス等が接近してきたときは、その正常な運行に支障を及ぼさないように、すみやかに当該車両通行帯の外に出なければならない。ただし、この法律の他の規定により通行すべきこととされている道路の部分が当該車両通行帯であるとき、又は道路の状況その他の事情によりやむを得ないときは、この限りでない。
(以下略)

「自動車」という用語は一般的に、いろいろな種類の乗り物が含まれます。
この例の道路交通法は、様々な状況に応じた自動車の交通ルールが複数の条項に分けて規定されているので、条項ごとに「自動車」という用語の範囲を縮小したり、または拡大したりする必要があります。
このようなときに、条項を限定して定義することの意義があります。
終わりに
いかがだったでしょうか?
今回のコラムは、「定義規定」について、その意義の解説と表記の仕方のご紹介でした。
定義規定をうまく活用できると、文書に疑義が生じにくくなりますし、体裁もスッキリと見やすくなるので、是非ご活用いただければと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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投稿者プロフィール
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職業:行政書士
経歴:平成30年4月から令和6年12月まで地方公務員として勤務。主に、住民税の賦課業務、例規および重要文書の審査業務などに従事。令和7年5月に行政書士事務所を開業
取扱業務:会社設立サポート、契約書の作成・修正など
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